酒造に息づく
自然の力と
蔵人の技術

置賜地方の神社と日本酒、
そしてアートが出会う
⟨OMIKIプロジェクト⟩。
白鷹町の加茂川酒造株式会社では、
アーティスト
Ten Hundredが酒造りを通して、日本文化の歴史と伝統を体験。
自然のなかで生きる生命と一つになるようなクリエイションとなった。

江戸時代から続く、人と酒
命の営みが味をつくる

白鷹町鮎貝で寛保元年(l741年)に創業した加茂川酒造は、昔ながらの製法である生翫造りを伝承している。280年もの歴史のなかでは火災に見舞われることもあったが、地域の支援を得て復興を果たし現在まで続いてきたという。14代目当主で杜氏の鈴木一成さんは「自分の力ではないんですよね。地域の人たちに支えられています」と、屋敷の居間に掛けられた長い家系図を見ながら語った。

朝日連峰の景観が美しいこの場所で酒造りをするにあたり、最初に名付けた屋号は「朝日政宗」。江戸時代後期の蔵元が、鶴岡市大山にあった京都の流れをくむ酒蔵「加茂川」に奉公に出て、そこからのれん分けされ現在の「加茂川酒造」になった。当時、寿命が長く縁起がいい亀に繁栄の願いを込めて贈られたという大きな亀の甲羅には「銘酒加茂川朝日政宗」と記され、その歴史を伝えている。

生翫造りへのこだわり

加茂川酒造の酒には、フルーティな軽やかさと芯がしっかりとした味わいがあり、どの銘柄でも煽で飲めるほどのコシがある。特徴的なのは、糖をアルコールに変えて酒を育てる「酒母」を手作業で造る生翫造り。蒸した米と水に麹、酵母、乳酸茜を加え、酵母を培養することによって日本酒の発酵のベースをつくる製法だ。乳酸菌から生まれる乳酸には日本酒にならない雑菌を滅する役割があり、加茂川酒造では蔵の空気や壁、天井にいる乳酸茜を繁殖させ手づくりの乳酸を使っている。「乳酸菌は空気中に何千といますが、酒造りに適している菌は酒蔵に息づいています。酒に合う乳酸菌が酵母に集まってくるんです」という鈴木さん。

明治末期になると精製された乳酸を使う「速醸」技術が生まれ、雑菌による腐造を防ぎ、酒母づくりの期間を短縮できるようになった。酒蔵の負担は軽くなったが、戦後、速醸だけをやってきた酒蔵が生翫造りをまたやってみようとしても、酒に適した乳酸菌が散ってしまい酒にならなかった例もあったという。加茂川酒造では味に深みが出る生翫造りをこれからも大切に受け継いでいく考えだ。「酒造りの理論を教えてくれた先生に、蔵の中の菌をどのようにするかはあなたの手腕だと言われましたが、毎年酒造りをしていて思うのは、主役は菌だということ。自分たちが造ってやろうという考えでいると、酒蔵の菌たちはヘソを曲げてしまうんです。酵母たちがどう発酵してくれるかを考えた方が出来上がりがいい」。
長く続いた酒蔵には独自の旨みを造りだす酵母が住み着いている。そして杜氏は酵母と会話をするように、繊細な感覚で酒を造り続けているのだ。

創造性を刺激する日本文化

「Ten Hundredが加茂川酒造を初めて訪問した時、なぜアーティストと協働してみたいと思ったのか、と杜氏に質問した。鈴木さんは「我々も、ものづくりをする職人なんです。だからうちの酒がアーティストのイメージをどのように広げるか、酒になった想いをどう表現してくれるのか、非常に興味があります。ワクワクしているんです」と答え、二人は今回のプロジェクトに対して同じ想いを共有している。酒蔵見学をした翌日には、平安時代に創建され長く崇敬されてきた鮎貝八幡宮で御祈祷し、白米表層に残留している糠分を取り除く洗米を体験。時をおいて特別に麹づくりにも参加を許された。厳かな神事、正確に進められる酒造りの工程、蒸した米の熱さが御神酒への理解を深めた。

14世代にもわたって伝承され、味を高めてきたことに強い印象を受けたというTenHundredがラベルのモチーフに選んだのは玄武。長寿と不死の象徴である亀と、生殖と繁殖の象徴である蛇が合わさった姿で、北方を守護する神である。また、来訪した時に目にした白い雪を冠した山々と町をイメージさせる白鷹も描かれている。これまでのプロジェクトで送り出した日本酒ラベルのモチーフは、黒獅子、鳳凰、龍。期せずして天の四方を司る堂獣である「四神」を思わせる作品が揃うことになった。酒を造る麹、酵母、乳酸菌、そして職人とアーティストの関わりが、地域の酒蔵に新たな光をあてる日本酒を造り出した。他にはない独自性がそこにはある。

Ten Hundred Gallery

Ten Hundred

明るくカラフルで想像力豊かなキャラクターを特徴とし、1つの作品に、神秘的な独自の世界観を作り上げるTen Hundred。漫画やアニメ、ストリートアートや落書き、漫画、世界文化、宗教、民俗学など、様々なカルチャーから触発を受け、これまでにシアトル、ポートランド、デンパー、ロサンゼルスで数々の作品を発表し、またシアトル、ニューヨーク、ロサンゼルス、カンザスシティ、ベルリン、ウィーン、ペルファスト、ロンドン、東京、山形、プラジルのプジオスなど、世界中の壁に壁画を描きながら精力的に活動している。

近年では、Amazon、Nordstrom、Converse、Jet Blue、Lenscrafters、Monster、Caffe Vita、Sasquatch Music Festivalなどの大型プロジェクトを次々に手掛け、Youtubeから専届アーティストとして公式認定を受ける人気ユーチューバーとしても知られている。
またシアトルではアートギャラリーショップ「Statix」を運営。洋服、おもちゃなど様々なプロダクトから、ビジネス向けのアートデザインまで、従来の枠に捕らわれない幅広いアート活動を行なっている。

OMIKIプロジェクトについて

やまがたアルカディア観光局では、東洋のアルカディアと呼ばれる当地域のお土産開発プロジェクトの一環として、日本独自の文化である日本酒を通して世界に当地域を発信すべく、当地域の酒蔵と世界的に著名なグラフィックアーティストがタッグを組み、地域の神社に酒造りの成功をご祈祷していただいた上で、オリジナルの日本酒を開発。観光局のお土産として販売する「OMIKIプロジェクト」を進め、世界に「SAKE」のハイブランドとして「OMIKI」を販売・展開・プロモーションしていくプロジェクトです。

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