【飯豊町・雪室低温貯蔵施設 YUKIMURO】旅行会社に向けたインスペクションを行いました

アルカディア活動日誌

2026年7月13日(月)

海の京都DMOのJesse Efronさん、株式会社みたての庄司さん、飯豊町商工観光課の菊川さんと『雪室低温貯蔵施設 YUKIMURO』にて旅行会社に向けたインスペクションを行いました。

雪は地域の資源

この日は、こしゃる合同会社の船渡川さんをはじめ、雪室に関わる皆さまから施設の仕組みや活用方法について詳しくご説明いただき、さらに雪室で熟成されたじゃがいもやコーヒーなども振る舞っていただきました。

飯豊町といえば、冬になるとたくさんの雪が降り積もる地域。

雪は生活の中では、ときに「大変なもの」「除雪しなければならないもの」として捉えられます。

ところが、このYUKIMUROでは、その雪を天然の冷熱エネルギーとして活用しているのです。

雪国ならではの環境を、地域の知恵と工夫によって「食を育てる力」に変えている。

今回の見学を通して、そんな飯豊町の雪との付き合い方を知ることができました。


そもそも「雪室」って?

YUKIMUROは、冬の間に降り積もった雪を利用して、施設内部を低温に保つ低温貯蔵施設です。

一般的な冷蔵庫であれば電力を使って庫内を冷やしますが、ここでは大量の雪そのものが冷却の役割を担います。

雪室は、低温だけでなく高い湿度も保ちやすいことが特徴。

一般的な雪室でも、低温・高湿度の環境によって食品の乾燥を抑えたり、鮮度を保ったり、農作物の糖化を促したりする効果が知られています。

つまり、雪はただ「冷たい」だけではありません。

雪だからこそつくれる環境がある。

そこに、この施設の面白さがあります。


中に入る前から「不思議な建物」

実際にYUKIMUROを見て、まず気になったのが建物の形でした。

壁にはいくつもの大きな扉。

そして建物の内部には、後ろ側に向かって丸くカーブした独特の構造があります。

「これは何のための形なんだろう?」

と思っていたのですが、説明を聞いて納得しました。

冬になると、この扉から除雪機などを使って大量の雪を施設の中へ入れます。

入れられた雪は、建物の丸いカーブに沿って下へと積み上がっていく。

そして、壁側から天井にかけて雪が積み重なり、貯蔵庫を包み込むような状態になります。

つまり、この不思議な形そのものが、雪を効率よく貯め、庫内を冷やすための仕組みになっているのです。

外から見ただけでは想像もつかない構造。

「雪室」と聞いて、雪をただ山のように積んでいるだけだと思っていたので、実際の仕組みを聞くとかなり面白いものでした。


年間を通して、1~4℃・湿度約85%

YUKIMUROの内部は、年間を通しておよそ1~4℃、湿度約85%という環境が保たれています。

電気で冷やし続けるのではなく、冬に蓄えた雪の冷熱を利用して、この低温環境を維持します。

まさに、

「冬の雪を、夏まで持っていく」

ような仕組みです。

雪国である飯豊町だからこそできる貯蔵方法。

そして、自然にある雪を活用することで、冷蔵に必要な電力を抑えることができます。

雪を「処理するもの」から「利用するもの」へ。

この発想そのものが、雪国の暮らしから生まれた知恵なのだと感じました。


3か月以上寝かせると、じゃがいもが甘くなる?

今回、実際に振る舞っていただいたものの中でも特に興味深かったのが、雪室で熟成されたじゃがいもです。

じゃがいもを雪室で3か月以上保存すると、糖度が約2倍になるそうです。

低温環境に置かれた農作物では、凍結から身を守るためにデンプンを糖へ変化させる「低温糖化」が起こることが知られています。雪室では、この性質を利用して農作物の甘みを引き出すことができます。

「保存する」だけではなく、

保存することで、さらに美味しくなる。

これが雪室の面白いところです。

冬の雪を使って温度を低く保ち、その時間の中で食材そのものの変化を待つ。

急いで何かを加えるのではなく、自然の力を借りながら、ゆっくりと美味しさを引き出していく。

なんとも雪国らしい、贅沢な保存方法です。


雪室が生み出す、飯豊ならではの商品

そして、YUKIMUROの面白さは、単に「食材を保存する場所」にとどまらないこと。

雪室の特性を活かした商品が、地域のさまざまな事業者によって生み出されています。

例えば、若乃井酒造の日本酒「雪解けの誘い」。

こしゃるでは「雪室熟成珈琲」。

中津川エフエフでは「雪室じゃがいも」。

同じ雪室を使いながら、それぞれ異なる素材の魅力を引き出しています。

雪を使って酒を育てる。

雪を使ってコーヒーを熟成させる。

雪を使って農作物の甘みを引き出す。

こうして見てみると、YUKIMUROは一つの貯蔵庫というより、飯豊町のさまざまな「雪の恵み」が集まる場所なのだと感じます。


地域の人たちが使う「みんなの貯蔵庫」

さらに興味深かったのが、この施設が地域の事業者だけのものではないということ。

現在では、地域の方およそ100名ほどが、米や果物、酒などの保存にYUKIMUROを利用しているそうです。

地域で暮らす人たちが、それぞれの大切なものをここに預ける。

雪室という特殊な施設が、観光のためだけに存在しているのではなく、実際に地域の暮らしの中で使われているのです。

これは、今回のインスペクションで特に印象に残ったポイントでした。

観光施設として「見せる」ためのものではなく、地域の日常の中で今も役割を持っている施設。

だからこそ、そこを訪れることで、飯豊町の暮らしそのものを少し知ることができます。


雪室の一年は、雪とともに動いている

YUKIMUROでは、季節によって中に入っているものも変わります。

冬の間に雪を入れ、雪がつくった低温環境の中で、さまざまなものを貯蔵する。

そして10月頃になると、残っている雪をすべて外へ出し、今度はラ・フランスの貯蔵へ。

雪を入れる。

雪が施設を冷やす。

食材や酒を貯蔵する。

そして雪を出し、次の季節へ。

YUKIMUROそのものが、飯豊町の季節の移り変わりに合わせて動いているようにも感じます。

冷蔵庫なら、スイッチを入れれば一年中同じように冷やすことができます。

でも、雪室は違います。

冬が来て、雪が降るからこそ始まる。

自然のリズムとともに動く貯蔵庫なのです。


雪国だからこそ生まれた、環境にやさしい知恵

今回、YUKIMUROを見学して一番印象に残ったのは、「雪国だから仕方なく雪と付き合っている」のではなく、雪があることそのものを地域の強みに変えているということでした。

大量に降る雪、それを除雪し、運び、積む。

冬が終われば消えていく、そんな雪をただ「なくす」のではなく、冷熱エネルギーとして利用する。

電気を使って冷やすのではなく、冬に自然がつくった冷たさをそのまま貯めておく。

雪室は、雪国に昔からある知恵を現代の技術と組み合わせながら活用している、非常に興味深い仕組みです。

「雪が降るからこそできること」が、ここにはあります。


「雪」を目的に、飯豊を訪れる

飯豊町を訪れると、どうしても「豊かな自然」「農産物」「温泉」「飯豊連峰」といった魅力に目が向きます。

でも、今回YUKIMUROを見学して、新しい飯豊の魅力をひとつ知ることができました。

それが、「雪と暮らす知恵」です。

雪室という施設を見学する。

雪がどのように使われているのかを知る。

実際に雪室で熟成されたじゃがいもやコーヒーを味わう。

さらに、その雪室を使っている地域の事業者や商品を巡ってみる。

そうすると、「雪」という一つのテーマから、飯豊町の食、農業、酒、コーヒー、そして地域の暮らしまでつながっていきます。

今回のインスペクションを通して、YUKIMUROは単なる「珍しい貯蔵施設」ではなく、飯豊町の自然と暮らし、そして地域の産業をつなぐ場所なのだと感じました。

雪国にとって当たり前だった「雪」。

その当たり前を、少し違う角度から見てみる。

するとそこには、食を美味しくする力や、環境への負荷を抑える知恵、そして地域の人々の暮らしを支える仕組みがありました。

冬に降る雪が、春を越え、夏を越え、秋の実りへとつながっていく。

雪は、飯豊の冬だけのものではない。

一年を通して地域を支える、大切な資源なのだと感じたインスペクションでした。

 

■雪室低温貯蔵施設 YUKIMURO
〒999-0427
山形県西置賜郡飯豊町上原293−1