昔ながらの製法で
新たな挑戦を
続けるワイナリー
南陽市にある老舗、酒井ワイナリーと、ニューヨークで活躍しているイラストレーター清水裕子がコラボレーション。
ぶどう畑にいる動物と植と人とが織りなす世界を、そのまま瓶に詰めたかのようなワインが誕生する。
酒井ワイナリーの独自性を感じ、地域の風土が香るワインを目指す。
明治時代に誕生した
東北初のワイナリー
置賜盆地の北部に位置する県内有数のぶどうの産地、南陽市。国道13号線や奥羽本線から見える、十分一山、名子山、かつて米沢街道随一の難所であったとされる鳥上坂の、山肌一面にはぶどう畑が広がっている。山形県のぶどう栽培の歴史は古く、江戸時代には南陽市赤湯地区に甲州種が植えられていたという。言い伝えには、近隣の鉱山に甲州(現、山梨県)から来た鉱夫が甲州ぶどうを持ち込んだ説、出羽三山に通じる街道を通り修験者が持ち込んだ説などがあるが、南陽市周辺一帯の気候・風土がぶどう品培に適していたことは、間違いなく、現在は市内6つのワイナリーが個性的なワインを造り続けている。
赤湯地区にある酒井ワイナリーは創業129年。もともとは温泉旅館を経営していたが、1887(明治20年)に酒井家16代当主弥惣氏が赤湯鳥上坂にぶどう園を開墾。初代県令三島通庸が果樹振興政策を施行するとワイン用のぶどうを植え、1892(明治25)年にぶどう酒醸造業に着手、東北初のワイナリーが誕生した。日本酒が主流の文化や戦争など、固難にあってもワイン醸造を続け、ワイナリーとしては5代目となる酒井一平さんが後を継いでいる。
”赤湯ならでは”のワインを目指して
山を切り拓いた畑は急斜面で、日当たりが良く水捌けもいい。昼夜の寒暖差もあり良質なぶどうの適地といえるが、急斜面であるがゆえに機械化ができず、生産者の高齢化により耕作放棄が進んでいる状況だ。酒井さんは「古い産地を守りたい」という想いからそれらの畑を引き受け、自社畑として耕作している。畑には様々な品種を植え、新たな特性を見出し、赤湯の個性とは何なのかを突き詰めようとしているところだという。酒井ワイナリーでは、ろ過機を使わないノンフィルターでの瓶詰めや、除草剤や殺虫剤を使わない昔ながらの方法を続けている。さらに10年ほど前からは羊を放牧して雑草をコントロールし、肥料作りを始めた。
「薬剤を使わずに生産するリスク」はありますが、植物や動物の力を借りて、山や畑の環境を落ち着いたものにしていきたい。いろいろな生き物がのびのびと生きている環境でこそ、地域の個性を映したワインができると考えているので、手間ひまかけています。」という酒井さん。今回のプロジェクトでは、そんな酒井ワイナリーの独自性が表現されることを期待している。「生産本数がかなり限定される商品になります。私たちのことを知っている方々が、新しいラベルを通して、さらに深い理解に達するようなものができたら理想ですね」と語った。
生き物が絡み合って
生まれるワイン
イラストレーターの清水裕子さんは、「畑や地域のことをより深く感じられるようなラベルを創りたい」という酒井さんの意を受け、酒井ワイナリーが行っている循環型農業や、ありのままに取れたぶどうからワインを造るという考え方を、注意深く聞き取った。畑に姿を見せる鳥をラベルのモチーフにした「鳥シリーズ」の話題から、熊や猪の獣害があること、カモシカや羊など四つ足の動物たちも畑を構成する生き物の―つであることを聞くと、「羊の放牧の話はすごく気になってました。イメージがわきますね」と反応。また、南陽市の花である菊や烏帽子山公園の桜、ぶどう畑、飯豊山の美しい写真を目にすると「いいところですね!」と声を弾ませ、「私が日本にいたのは物価が世界一高いと言われてた時代で、海外旅行の方が安かったんです。だから国内旅行をしていないんですよね。アメリカの友人の方が、私より日本のことを知っているくらい。ぜひ行ってみたいです」と、ニューヨークから遠く離れた小さなワイナリーに想いを馳せた。今回のプロジェクトでつくるのは、酒井ワイナリーが最初に開拓した畑である名子山で収穫された、日本特有のぶどう、マスカットベーリーAとブラッククイーンを使った赤ワイン。樽を選定し特に良いを選び出して瓶詰めするバレルセレクションとなる。古くから地域で栽培された品種を使ったワインがどのような姿で生まれ変わるのか、新たな挑戦が始まった。
Yuko Shimizu Gallery
清水 裕子
東京生まれ。早稲田大学卒業、某総合商社で11年広報を担当した後、30代で渡米、ニューヨークSchool of Visual Artsでイラストを学ぶ。修士課程卒業後以来欧米を中心にイラストレーターとして活動、また母校で教鞭を取っている。主なクライアントに、アップル、マイクロソフト、ニューヨークタイムス、タイム、DCコミックスなど。2009年には、ニューズウィークジャパンの世界が尊敬する日本人の一人に選ばれている。
OMIKIプロジェクトに
ついて
やまがたアルカディア観光局では、東洋のアルカディアと呼ばれる当地域のお土産開発プロジェクトの一環として、日本独自の文化である日本酒を通して世界に当地域を発信すべく、当地域の酒蔵と世界的に著名なグラフィックアーティストがタッグを組み、地域の神社に酒造りの成功をご祈祷していただいた上で、オリジナルの日本酒を開発。観光局のお土産として販売する「OMIKIプロジェクト」を進め、世界に「SAKE」のハイブランドとして「OMIKI」を販売・展開・プロモーションしていくプロジェクトです。