人と地域と
風土に根付いた
酒造り

置賜地方の神社と日本酒、
そしてアートが出会う
〈OMIKIプロジェクト〉。
第5弾となる今回は、長井市の鈴木酒造店長井蔵とイラストレーター長場雄さんがコラボレーション。
人とのつながりや地域との関わりを大切に、直向きに造った日本酒と、瑞々しい情緒が感じられる至極の一本が誕生した。

まっすぐにひた向きに
人の暮らしのそばにある酒

福島県浪江町で古くから酒造業を営んできた鈴木酒造店。その歴史は江戸時代までさかのぼり、廻船問屋かいせんどんやを営むかたわら相馬藩より濁酒どぶろく製造を許され、天保年間には酒造りを行っていたという記録が残っている。海運の港として知られる請戸うけど地区では、命の危険と隣り合わせの海の仕事に従事している住民が多く、何事にも縁起を重んじたという。鈴木酒造店の代表銘柄「磐城壽いわきことぶき」は、めでたい名前と親しみやすさのなかに品格を備えた味わいが愛され、海の男酒、祝い酒として人々の暮らしのそばにあり続けた。

それが一変したのは、2011年3月。東日本大震災により全建屋が流出し、蔵のあった場所は東京電力福島第一原発から直線距離7キロの距離にあったため、事故の影響で一時警戒区域に指定された。避難を余儀なくされ、代表取締役で杜氏の鈴木大介さんは、一家で米沢市に避難。酒蔵だけでなく、酒米をつくる農家が被害にあったこと、原発事故で帰郷が許されない状況に心を痛める日々が続いた。「これまでの人との繋がりや関係性といった、時間と共に積み重ねてきたものが失くなってしまったという喪失感は大きくて、しばらくは酒造りのことは考えられなかったです」と、当時の心境を語る。それでも亡くなった人たちのことを想い、前を向くように努めた。
福島県内の研究施設に、津波で失われた蔵の酵母が残っていたことから、少しずつ酒造りへの気持ちが熱を帯びはじめたという鈴木さん。山形県の酒造組合から長井市の東洋酒造株式会社を紹介され、酒蔵を買い受ける形で「鈴木酒造店長井蔵」を開業。新たな挑戦がはじまった。

綺麗な軟水と
地産の米を生かして

鈴木酒造店長井蔵では、地下深く流れる伏流水と長井の生産者がつくる酒米を使用し、盛夏を除き通しで酒を醸造する三季醸造を採している。丁寧な小仕込みは、水と米の良さを生かす。「長井の水が素晴らしいということは、作り始めてから今まで、ずっと実感していますね」と語る鈴木さん。また「仕込み水と酒米の両方とも、その土地のものを使うということは熟成にも向いている」という。今回のプロジェクトで生まれた『IWAKIKOTOBUKI JUNMAIDAIGINJO』は、山廃仕込みの純米大吟醸の雫取り。絞る時に圧力を一切加えず、もろみを入れた酒袋を吊るししたたり落ちてくる酒を一滴一滴を集める手法だ。保存状況によっては5年から10年は置いておけるそうで、ヴィンテージワインのような楽しみ方もできる。「素直に水の良さと米の良さを表現しながら、日本酒が持つ可能性を追求していく」という、酒造りの変わらぬ姿勢とこだわりが凝縮した一本となった。

シンプルな線に宿る物語り

鈴木酒造店長井蔵と長場雄さんとのコラボレーションは、新型コロナの影響でオンラインでのやり取りを通して行われた。現地に赴いて酒蔵の空気を感じ、杜氏とアーティストが酒を酌み交わしながら創造していくという過程がなくなったことで、双方ともに対話からイマジネーションを広げ、本質的な部分を違えないよう感覚を共有していくことが求められた。
長場さんが描いたラベルのイメージは、鈴木さんとの会話のなかで登場した「卯の花姫の伝説」から。長井市に伝わる悲哀の物語にインスピレーションを受け、卯の花姫のイメージを膨らませていった。「複雑な気持ちが出ると面白いかなと思って。何か悲しげだったり、何かを考えているようでもあり、何かを感じているのかなっていう表情になっています」と語る通り、『IWAKIKOTOBUKI JUNMAIDAIGINJO』には、シンプルな線画で、なんとも言えない表情が印象的な女性が描かれている。「例えば、”笑っている”とかの分かりやすい絵だと、そのままストレートに受け取られてしまうだけ。表情がない方が、見る人が惹き込まれてくれるのかなと思って描いてます」。

これまでの日本酒にはない雰囲気に仕上がったラベルに対し、鈴木さんは「長場さんらしい表現で、長井を良く見てくれたなと思いましたね。伝説のなかで卯の花姫が身投げした川が、私達が使っている水の源流。米も水も、全部がつながっている……ストーリーを感じるイラストになっていて嬉しく思います」と、感謝を伝えた。

Yu Nagaba Gallery

長場 雄

1976年東京生まれ。東京造形大学デザイン学科卒業。アーティストとして個展を開催する他、雑誌、藝籍、広告、様々なブランドとのコラボレーションなど領域を問わず幅広く活動。過去のワークスに、UNIQLO、ASICS、G-SHOCK とのコラボレーション、その他、マガジンハウス、RIMOWA、Technics、Spotify、UniversalMusic、Monocleなど国内外問わず様々なクライアントにアートワークを提供している。

OMIKIプロジェクトに
ついて

やまがたアルカディア観光局では、東洋のアルカディアと呼ばれる当地域のお土産開発プロジェクトの一環として、日本独自の文化である日本酒を通して世界に当地域を発信すべく、当地域の酒蔵と世界的に著名なグラフィックアーティストがタッグを組み、地域の神社に酒造りの成功をご祈祷していただいた上で、オリジナルの日本酒を開発。観光局のお土産として販売する「OMIKIプロジェクト」を進め、世界に「SAKE」のハイブランドとして「OMIKI」を販売・展開・プロモーションしていくプロジェクトです。

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