映像で見つけるアルカディア
地域を思い、本気で向き合う人たちに
大切な映像を届ける
株式会社HIROBA 映像ディレクター
宮部一通
CMやミュージックビデオ、映画やドキュメンタリーなどさまざまな作品を手がける映像ディレクター、宮部一通さん。8年前に制作した『水の都 長井〜受け継がれる水の歴史〜』をきっかけに、イザベラバードが見た「東洋のアルカディア」をこの地に息づく精神性に見出し映像化しています。アルカディア地域の人や風景を心に響く映像作品で表現したムービーは、やまがたアルカディア観光局(以下、アルカディア観光局)のウェブサイトから見ることができます。
ーアルカディア観光局の映像制作はどのように進められたのですか?
最初は、何を軸に撮っていくのか「アルカディアってなんだろう?」というところからプロジェクトに参加させていただきました。日本をずっと旅していたイザベラ・バードは、山形と同じように自然豊かできれいな風景を見ていたはずなのに、なぜ置賜地域だけ「東洋のアルカディア」と評したのか。開拓の歴史があるイギリスで育った彼女が、草木の中に魂を感じ自然を敬いながら暮らしている人たちを見たときに、この地が桃源郷のように見えたのではないだろうか、という仮説を立て制作はスタートしました。
今の時代にも、アルカディア地域には自然と向き合い仕事をしている人たちが多くいて、そういう方々の姿を映像で切り取っていこうという方針が定まりました。僕らの中にもこの地域の人々の考えや意識を入れていくことが必要だったので、そこから4ヵ月ほどの期間があり、2019年の8月頃から本格的な撮影が始まっています。
ー実際に撮影をして感じたことは?
置賜地方の方々と接していると、声にならない声を聞き、目に見えないものを大事にしている人が多いと感じています。SNSのフォロワー数など目に見えるものが重要な役割になることが多い時代の中で、それとは全く違う「山に神様がいる」「草木に魂がある」というものを大事にしていて、木を切るときにお寺の住職さんを呼んで手を合わせてもらったりしていますよね。そしてそういう場所で育った小さな子が、切り倒す木に「供養」と書いた紙を貼ったりする。誰かが感動するから感動するのではなく、自分が感動するものを撮り、それらを一つひとつ拾い集めていく制作過程はとても貴重で、自分自身影響されることが多いです。
僕たちは「誰かの大切な映像になるように」つくることを大切にしています。この地域に本気で向き合っている人たちに突き動かされるようにしてつくった映像が、「今まで気づかなかったけど自分はいいところに住んでいるんだな」「素敵だな」と、地域の人が誇りに思えるようなものになればいいなと願っています。
PROFILE
宮部一通(みやべ・かずゆき)
映像ディレクター。2011年に「株式会社HIROBA」を設立。CM、ミュージックビデオ、ファッション関係など、企画から脚本、演出、撮影まで行う。アルカディア地域で今後撮りたいものは、ヤハハエロとマタギ。制作を手がけた歌舞伎・市川海老蔵「古典への誘い」の舞台製作の裏側を映し出したドキュメンタリー作品『幕内劇場』が「映文連アワード2021」グランプリや「カンヌコーポレートメディア& TV アワード2021」シルバードルフィン賞などを受賞。