飯豊 中津川 水没林

神々が座する山と
人々の祈り

飯豊山の懐に抱かれた里

山形、福島、新潟の3県にまたがる飯豊連峰が連なる飯豊町。2,000m級の山々から流れる水は北東部に肥沃ひよくな稲作地域を形成し、良質なコメを生産、丘陵地きゅうりょうちは肉牛の産地として知られている。そして南部には最上川の源流地域となる山間地と、自然と人が共存しながら生活文化を育んできた山里地域が広がっている。

町の約84%を森林が覆う飯豊町の山間地、中津川地域に住まう人々は山菜やきのこを採り、保存食をこしらえ冬に備え遅い春を待ちながら暮らしてきた。豊かな自然が育んだ山の恵みや農環境は高度経済成長期には産業振興の対象となり、集落にはいくつものなめこ缶詰工場ができた。また、1950年代には国が推進した植林事業により、農閑期にスギを植栽する人も多かったという。時代の流れによって産業は移り変わったが、この地に住む人々の山に対する感謝の心と、自然と暮らしの結びつきは変わらずに受け継がれている。

自然への崇敬すうけい
山岳信仰、山の神講かみこう

山仕事をする人にとって、山は崇拝すうはいの対象であり木々や動物を守護する神々が座す場所である。今でも山に入るときには自然と手を合わせる人が多く、山の神が禁忌きんきとする日は山に入らない。川内戸かわないど地区では毎月17日は、山に入るとケガをしやすい、帰って来られなくなる等の伝承があり、人々は山仕事をせずに体を休める日にしている。

また、年に一度開かれる「山の神講かみこう」では、山の幸でご馳走をつくり山の神の祭神に向かって感謝と無病息災を願って手を合わせ、二礼二拍手一礼してお神酒をいただく。集落ごとに日取りは異なるが、山の神講かみこうは山仕事の安全を祈る祭事として生まれ、大切な慣習としてどの集落でも定着し今に続いている。

山の神をまつり、守る人

飯豊町の最南端、山間にある広河原ひろかわら集落の手前の人里から離れた場所に「山の神」と名付けられた地区がある。茅葺屋根の屋敷が立ち並ぶ集落だったが、現在は高橋政義ご夫婦が暮らす1件のみとなっている。高橋さんが住む築150年の古民家は上下水道を引いておらず、山水を生活水にして木の実や山菜をかてに、自給自足に近い生活を送っている。畑の脇には山の神のほこらがあり、代々祈りを捧げてきたという。

毎年5月の祭りでは里から神主を呼び、高橋さんと山仕事をする人々が山の神に感謝と山仕事の安全を願った。昭和の時代には幼稚園や分校、公民館もあったが今はもうない。冬には4メートルも雪が積もり、窓から景色が望めないような環境であっても、ここに暮らしほこらを守り続ける理由は「昔からの部落、昔からの鎮守ちんじゅさまだから」。「山は思ったようにできないからなぁ。だから手を合わせるんだよ」と話す。

自然と調和し 美しく響く心の原風景

春の訪れを告げる、水没林

古来より人は自然に抱かれながら命を育む恵みの数々と、天候や自然災害には目に見えぬ大いなる力の存在を感じ生きてきた。山は神そのものとなり祀られているが、ひとたび荒れ狂えば人に為す術はない。1967年(昭和42年)の羽越水害で飯豊町は20戸の住宅が流出、34戸が半壊し、23の橋梁きょうりょうが流失した。洪水による反乱を防ぎ、河川環境を保全し、農業・工業・水道用水の供給と水力発電の実施を目的にした白川ダムが完成したのは1981年(昭和56年)のこと。その白川ダムの上流部に、長い冬が終わり春が訪れると「水没林」が現れる。雪解け水がダムを満たし湖畔の木々を水没させ、湖面から生えたかのような柳の木々が幻想的な景色を見せるのだ。毎年5月頃には朝霧に包まれた水没林と残雪と新緑と桜が、訪れる人の目を楽しませている。

一木一草に命を感じる精神こころ

草木塔と呼ばれる、伐採した樹木へ供養と草木の成長を願う気持ちを込めた石碑がある。その所在の多くは置賜地域にあり、飯豊町は中津川地区に20基ほど現存。近年になっても新たに建立され、草木の命を慈しむ精神は今もなお地域に刻まれ続けている。

自然と人の調和が心の奥に響く、美しいふるさとの原点がここにある。

INFORMATION & MAP

飯豊町商工観光課
〒999-0604 山形県西置賜郡飯豊町大字椿2888番地
TEL:0238-87-0523
https://www.town.iide.yamagata.jp/

(一社)飯豊町観光協会
〒999-0604 山形県西置賜郡飯豊町大字椿1974-2
TEL:0238-86-2411
http://www.iikanjini.com/

奇跡の絶景 
水没林をめぐるカヌー体験

エメラルドグリーンに輝く湖の中、木々の間をすり抜ける体験は、心から癒されます。漕ぎ方から教えてくれるため、全く経験のない初心者でも安全に楽しく体験することができます。
 水没林の時期以外にも、白川湖ではカヌー、カヤック、SUP(サップ)などの体験ができます。夏休みにご家族で、学校や地域の団体で出かけてみてはいかがでしょう。

水没林カヌー体験 90分コース 
※要予約

期間:4月~5月下旬
料金:大人 6,000円 子供 5,000円 
※保険料、道具一式を含みます
交通:JR米坂線 手ノ子駅から車で約20分
問い合わせ先:いいでカヌークラブ 
TEL:050-5832-7512
HP:https://www.iide3.net